【真夏のNutcracker】~The field ballet at Kiyosato

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山は太陽が近い。
そして潔く去っていく。
ジリジリと照りつける日差しで汗だくの身体に冷やっとした風が吹いて、慌ててショールを羽織る頃、薄っすらと夕焼け雲が残る舞台にダンサーが現れる。
今年は2日にわたってフィールドバレエを堪能した。

我が家の初日は、吉本新喜劇所属、自称バレリーナ芸人のけっけちゃんこと松浦景子さんがクララを演じる。
YouTubeのフォロワーが28万人のけっけちゃんだが、彼女の前例のない活動で話題の人だ。
芸術というのは、それがバレエであれ音楽であれ、やれ本物じゃないとか部外者だとかで炎上しがちである。
本物かどうかという話をするなら、パリオペラ座、ボリショイ、マリインスキー以外はバレエ団じゃない!と言い切る人もいるくらいだし、かつてピアニストのホロヴィッツは、アジア人にショパンは弾けない!と言い放った。
しかし時代は変わる。
海外で活躍する日本人ダンサーも音楽家も増えた。中にはバイオリニストのHIMARIちゃん(同じ名前なのが恥ずかしい)のような、神がかった日本人まで現れ始めた。
というわけで、ホンモノ議論はあまり意味がないと思うし、けっけちゃんはバレエコンクール全国一位の経歴を持って新喜劇のオーディションを受けた芸人さんなので、とにかく一度は彼女のナマの舞台を観てみたかった。
結論。
彼女は芸人ではない、バレリーナでもない、まさにバレリーナ芸人だった。バレエは丁寧で正確で、日本のどこかのバレエ団所属ですと言われても違和感は感じない。でもどこかに関西の新喜劇のテイストがしっかりと残っていて、他のダンサーとは明らかに違う。
唯一無二のバレリーナ芸人のけっけちゃんのクララは、まさに彼女が開拓者なのだとしみじみ感心した初日だった。

我が家の2日目は、いよいよ金平糖の精で、東京バレエ団の上野水香さんが登場。
彼女が出演する日はチケットがすぐにsold out。観客も多いし出演者も揃うからか、早めに会場入りして見学した場あたり(リハ)では、監督のゲキが凄かった。久々に見たバレエのリアル舞台裏。

上野水香さんをその昔、目黒駅で見かけたことがある。脚が見事にターンアウトして、ピンクパンサーのような人が居る(失礼!)と思ったら、水香さんだった。
オーラがすごかった。
今回、金平糖はもしかしたら彼女の当たり役ではないのかもしれないなとは思ったけれど、美しいピルエット、とにかくその存在感たるやさすがとしか言いようがない。
バレリーナ芸人けっけちゃんのクララに、金平糖の上野水香さんまで堪能して、今年も大満足のフィールドバレエ。

幕間で照明が落ち、暗転したとき、
観客の誰かが、あっと声を上げ、そこからざわつきが起こった。
星空があまりに綺麗だったのだ。
観客は一つの家族みたいに、一斉に顔を上げて空を見る。
ちょっぴり恥ずかしいくらいみんな一緒にシーンと黙り込む。
フィナーレ、グランパドドゥのあと、クララが夢から醒めるとき、本物の花火がドドンッと上がり、今度は子供のように胸が熱くなる。

これだから、野外バレエはやめられない。

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